【書評】『よるのばけもの』本当の「ばけもの」とは?本当の「自分」とは?人間の本質を抉る傑作!

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『よるのばけもの』 住野よる 著 あらすじ


夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて―。大ベストセラー青春小説『君の膵臓をたべたい』の著者が描く、本当の自分をめぐる物語。

出版書誌データベース公式サイト(最終閲覧日5月15日)
https://www.books.or.jp/books/detail/2273310

こんな人におすすめ!『よるのばけもの』おすすめポイント!

正直言うと、この小説は人を選ぶと思います。

大ヒットを記録した『君の膵臓を食べたい』がカレーライスだとしたら、『よるのばけもの』はらっきょうのようなものです。どういうことかというと、ジャンルが全く違うということです。『よるのばけもの』は一度その面白さにはまったら、やみつきになってしまうような中毒性があります

伏線がわかりやすく回収されるわけでもないし、読後感も気持ちいいものとは言えません。ですが、だからこそ、「あの発言は何を表しているのだろう」とか「あの伏線はこういう意味だったのかな」のように自然と考察したくなるのです。

読んでいくと分かりますが、この物語は最初いじめがテーマのように見えるのです。ですが、いじめ悪だとか間違ってるとかそういったことではなく、その環境の中で生きる上で、本当の自分とは何なのか、何を大切にするべきなのかを伝えようとしている作品だともいます。

ご都合主義でない、人の本質を穿つ物語。少しでも気になった方は是非読んでみてください

【ネタバレあり】『よるのばけもの』【書評】

ここからはネタバレありの書評をしていきたいと思います。皆さんもコメント欄にも是非感想を書いてください!感想を共有できたら嬉しいです 。

矢野を中心に物語を追っていきたいと思います

矢野さつきは、同級生にいじめられながらもにんまりと笑っている頭のおかしいキャラとして登場しました。いつもにんまりと笑っている矢野は、物語の中でも僕にとっても理解できない存在として映りました。

さらに信じられないのが、緑川という女の子の読んでいた本を奪い窓の外へ投げ捨てるという意味の分からない行動を起こし、同級生からいじめられる原因を自分から作ったことです。

いじめられる側にも原因がある」という言葉を体現したような行動。これでは頭のおかしいやつだと思われてもしょうがないなというのがここまでの感想でした。

だからこそ、このにんまり笑いの本当の意味を知ったときは本当に辛い気持ちになりました。

夜になると「ばけもの」に変身し、まるで無敵のような力を持つ主人公の安達。彼が矢野と夜の学校で「夜休み」を過ごすうちに、彼女に対する評価がちょっとずつ変化していきます。

有名な音楽グループが好きで、ジャンプを読んでて、金曜ロードショーを楽しみにしている、普通の感性を持った一人の女の子なのでは?と安達は徐々に気づき始めますが、それを認めることはできません。それを認めてしまうと正当性という自分を支える柱を失ってしまうからです。

この安達という人物も非常に特徴的ですが、実際似たような性格や特徴を持っている人はかなり多いのではないでしょうか?周りの空気を読み、できるだけ自分を押し殺し、とにかく輪の外にはみ出ないことを最優先とする考え方は、まさに日本人の気質をそのまま表していると思います。

この、自分を抑えて周りに迎合するときに生じる、「周りに合わせた自分」と「押し殺された自分」の葛藤こそがこの小説の主眼なのです。

ここで先ほども触れた矢野のにんまり笑いの真実が判明します。

矢野さんは、ほっぺにあてた手を口へと持って行く。

「怖いと、無理に笑っ、ちゃうの」

そうして自分の口の端と端を持ち上げた。

「こうで、しょにんまりにんま、り」

怖いと無理に笑っちゃう、これは衝撃でした。今までの全てのにんまり笑いの裏側にある矢野の真意が明らかになった瞬間です。

この矢野の告白によって、安達の心情も大きく揺れ動きます。そして、安達は揺れる心の果てに、ある行動を起こすのです。

安達は、矢野さんとの「夜休み」を通して心の中に二人の自分がいることを自覚します。

夜の、矢野を無視できない自分」と「昼の、皆から嫌われたくない自分」

結局安達はどちらの自分も自分であることを悟り、誰からも返事が返ってこない矢野の「おはよ、う」の挨拶にただ一人答えるのです。それが仲間意識への裏切りで、今度は自分が迫害される側になるとしても、逃げずに自分と向き合い行動した、この安達の答えが『よるのばけもの』で一番伝えたかったことなのだと思います。

矢野の発言の考察

ここからは終盤で矢野がクラスメイトの誰かを示した発言を考察していきたいと思います。

「いじめるのが好、きなふりし、て本当は誰かを下に見、てないと不安で仕方な、い女の子?」

これは井口のことを指していると思われます。

「好きなふり」という発言から、本当はいじめたくないという意味が見て取れ、「不安で仕方ない」という言葉からは内気で内向的な人間であることが分かります。

「頭がよ、くて自分がどうす、れば周りがどう動、くか分かって遊んでる男、の子?」

これは笠井のことを指しているのでしょう。

安達は笠井のことをクラスの人気者で気の良いやつだと思っていますが、矢野と緑川は一貫して笠井のことを悪いやつだと主張していました。おそらく、緑川がクラスのいじめの対象になるのを防ごうとして矢野が自分を身代わりにした一件の裏に、笠井が一枚かんでいると思われます。そして、そのことを知っているのが矢野と緑川だけなのでしょう。

「喧嘩しちゃっ、た元友達が、ひどいことされてて仲直りも出来な、くて、誰に対しても頷くだけしか出来、ないくせに責任を勝手に感、じて本人の代わりに仕返、しをして、る馬鹿なクラスメイ、ト?」

これは緑川のことですね。

「頷くだけしか出来ない」という言葉から確定できると思います。緑川は矢野がひどいことをされるたびに仕返しをしていました。野球部の窓を割ったり、井口のノートにひどい言葉を書いたり、中川の上靴をズタズタにしたり、高尾の自転車を盗んだり。

ここで気になったのが安達への仕返しがまだ行われていないことです。安達は矢野の能登先生への誕生日プレゼントを踏み潰してしまいましたから。

「でもま、だ気をつけ、た方がいい、よ」

と、矢野も忠告していましたから、もしかしたら安達はこの後緑川からの仕返しを受けたのかもしれません

まとめ

ここまで『よるのばけもの』の書評をしてきましたがいかがだったでしょうか?

また、同じ住野よるさんの著作である『また、同じ夢を見ていた』の書評も書いていますのでよかったらそちらも是非!

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